本記事にはプロモーションが含まれます。
「あの人とは一緒に仕事ができません」
部下からそう言われたときに、どう返すべきか迷った経験のある管理職の方もいるのではないでしょうか?
部下同士のトラブルは、管理職にとって他人事ではありません。
しかし、自分が間に入って悪化させたくない。かといって様子見もできない。この板挟みが、部下同士のトラブル対応をやりにくくしています。
この記事では、まず統計でこの問題の規模を確認し、トラブルを3種類に切り分けたうえで、実際の対処手順と、起こさないための予防策までをまとめました。
部下同士のトラブルは、職場でどれくらい起きているのか
部下同士のトラブルが起きると、「どうして自分ばっかり」「自分の指導が悪いせいなのか」と悲観的になってしまうかもしれません。しかし、実はこれは、多くの会社で起こっている事象でもあります。
厚生労働省の令和6年度個別労働紛争解決制度の施行状況によると、総合労働相談件数は120万1,881件、そのうち民事上の個別労働関係紛争の相談は26万7,755件でした。相談内容別で最も多かったのは「いじめ・嫌がらせ」の5万4,987件で、13年連続の最多です。
企業の側から見ても同じ傾向が出ています。厚生労働省の令和5年度「職場のハラスメントに関する実態調査」では、過去3年間にハラスメントの相談があった企業の割合は、パワーハラスメントが64.2%で最多でした。セクシュアルハラスメントが39.5%、顧客等からの迷惑行為が27.9%と続きます。
深刻化した場合の重さも押さえておいてください。厚生労働省の令和7年度「過労死等の労災補償状況」では、精神障害の支給決定件数1,082件のうち、出来事別で最も多かったのがパワーハラスメントの222件でした。
3社に2社が経験する頻度で起き、深刻化すれば労災の認定に至ることもある。対応を管理職の個人技に任せてよい問題ではない、というのが統計から読み取れることです。
部下同士のトラブルは3種類
部下同士のトラブルにおける対応を決める前に、まずは目的を決めましょう。決めるべきは、どちらが正しいかではなく、この件で何を回復させたいのかです。
ただ「仲を取り持つこと」を目的にすると、うまくいく確率は下がります。人の相性は管理職の能力で変えられるものはありません。変えられないものに労力を割くのは、状況が良くならないばかりでなく、自身も疲弊していまします。
一方、業務が滞らない状態をつくることが目的なら、担当の分け方、報告経路、会議の組み方と、打てる手が出てきます。関係そのものではなく、関わり方の設計を変えるという発想を持って取り組みましょう。
そのうえで、部下同士のトラブルを下記の3つに分けます。
- 業務上の対立
- 相性やコミュニケーションのすれ違い
- ハラスメントの疑いがあるもの
1. 業務上の対立
担当範囲の重なり、優先順位の食い違い、品質基準のズレ。
感情的に見えても、元をたどると業務設計の問題であることも少なくありません。
前述の令和5年度「職場のハラスメントに関する実態調査」でも、パワハラを経験した人が挙げた職場の特徴として「人手が常に不足している」が24.4%(非経験者は15.1%)、「失敗が許されない/失敗への許容度が低い」が21.2%(同11.2%)と、業務の状況が上位に入っています。
2. 相性やコミュニケーションのすれ違い
どちらにも悪意がなく、性格的に噛み合わないケースです。仕事の進め方の前提が違う、報告の粒度の感覚が違う、そもそも仕事の向き合い方や考え方が違う、といったものです。
このタイプは、無理に距離を縮めようとするとかえってこじれます。良かれと思って仲を取り持とうとすることで、状況が悪化することもあるかもしれません。
部下同士の相性が悪い場合は、必要な接点だけを残し、それ以外は分けるほうがうまくいくはずです。
あわせて読みたい管理職で人間関係が苦しい…つらくなる理由と状況から抜け出す対策管理職自身の、上・下・横の人間関係の整え方はこちら。3. ハラスメントの疑いがあるもの
ハラスメントというと上司・部下の関係に限ったものと思われるかもしれませんが、部下同士でも起こり得ます。
厚生労働省の職場におけるハラスメント対策の資料では、職場のパワーハラスメントを次の3つをすべて満たすものとしています。
- 優越的な関係を背景とした言動
- 業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
- 労働者の就業環境が害されるもの
部下同士であっても、優越的な関係は成立します。先輩後輩、経験差、業務知識の差、集団による圧力。役職が同じでも、力関係が対等とは限りません。
最終的な判断は管理職個人が下すものではありません。会社の相談窓口や人事、必要に応じて外部の専門機関が関わる領域です。同資料では、事業主が講ずべき措置として、下記などを挙げています。
- 方針の明確化と周知啓発
- 相談体制の整備
- 事後の迅速かつ適切な対応
- プライバシー保護
- 不利益取扱いの禁止
これは会社の義務であり、あなた個人が背負うものではありません。
実際の整備状況も確認しておくとよいでしょう。前述の令和5年度「職場のハラスメントに関する実態調査」では、パワハラの予防・解決のために企業が実施している取組として、相談窓口の設置と周知が86.0%、内容と方針の明確化と周知が82.6%、相談者のプライバシー保護措置が68.3%でした。自社にどれがあるかを、トラブルが起きる前に把握しておきましょう。
部下同士のトラブルへの対処方法は、5つの手順で進める
業務上の対立と、すれ違いのケースについて、順番を示します。
1. 必ず、別々に話を聞く
最初から同席させるのは避けてください。相手がいる場では本音が出ませんし、その場での発言が新たな火種になります。
聞く順番は訴えてきた側が先で構いません。ただし、片方の話を聞いた時点で判断を固めないことが重要です。
なお、相談が上がってくること自体が例外的だという点も知っておいてください。令和5年度「職場のハラスメントに関する実態調査」では、パワハラを受けた後の行動として「何もしなかった」が51.7%で最多でした。声を上げた部下は、半数が沈黙する中で動いたことになります。
2. 事実と解釈を分けて記録する
聞いた内容は、その日のうちに書き残してください。書き方はひとつで、事実と解釈を分けることです。
「水曜の定例で、Aさんの提案に対しBさんが『それは前にも言った』と発言した」は事実。「Bさんは見下している」は解釈です。記録が事実で構成されていると、後から誰が見ても判断できます。
3. 業務の設計で解決できないかを先に見る
対人の調整に入る前に、構造を確認してください。担当の重複はないか、決裁のルートが二重になっていないか、情報が片方にだけ流れていないか。
設計を直すだけで消える対立は、想像以上に多くあります。人を変えようとするより、はるかに早く効きます。
4. 同席させるのは、必要なときだけ
話し合いの場を設けるのは、両者が業務上の合意を必要としている場合に限ります。議題は感情ではなく業務にしてください。
「今後、この案件はどう進めるか」を決める場にする。謝罪や和解を目的にした同席は、管理職が制御できる範囲を超えます。
5. ハラスメントの疑いがあれば、窓口につなぐ
3つ目のタイプだと感じたら、自分で解決しようとしないでください。あなたがすべきは、適切な窓口につなぐことと、記録を残すことです。
このとき注意したいのが、相談してきた本人の意向です。本人が望まないまま話を広げると、信頼を失ううえに不利益な扱いにつながる恐れもあります。誰にどこまで伝えるかは、必ず本人と確認してください。社内の窓口が機能していないと感じる場合は、各都道府県の労働局が設置する総合労働相談コーナーが無料で相談を受け付けています。
対応が長引くと、聞く側の負荷も積み上がります。自分の整理先を別に持っておきたい場合は、国内最大級のオンラインカウンセリングサービス【Kimochi】
のようなオンラインのカウンセリングも選択肢です。また、厚生労働省のこころの耳には無料の相談窓口もあるので、まずそちらから試す形で構いません。
部下同士のトラブルを未然に防ぐために、管理職ができること
起きてからの対応より、起きにくい状態をつくるほうが負荷は小さくなります。手がかりになるのが、トラブルが起きやすい職場の特徴です。
令和5年度「職場のハラスメントに関する実態調査」では、パワハラを経験した人と経験していない人で回答の差が大きかった職場の特徴が示されています。
- 上司と部下のコミュニケーションが少ない/ない:経験者30.6%/非経験者1.9%
- 残業が多い/休暇を取りづらい:24.8%/3.7%
- 業績が低下している/低調である:20.2%/2.8%
- ハラスメント防止規定が制定されていない:20.9%/6.4%
最も差が大きいのはコミュニケーションの量で、28.7ポイントの開きがありました。次いで、残業と休暇の取りづらさが21.1ポイントです。
ここから、管理職が自分の権限で動かせる予防策は3つに絞れます。
1対1で話す機会を持つ
一つ目は、1対1で話す機会を定期的に持つことです。トラブルの相談を待つのではなく、平時に接点をつくっておくと、初期段階で情報が入ります。
残業と休暇を管理する
二つ目は、残業と休暇の状態を管理することです。休めていないチームほどトラブルが起きやすいという傾向が、上のデータに出ています。特定のメンバーに負荷が偏っていないかを、月単位で確認してください。
役割と決裁ルートを明文化する
三つ目は、役割と決裁ルートを明文化することです。担当の重なりは、業務上の対立の温床になります。
取組の効果も数値で出ています。同調査では、ハラスメントの予防・解決の取組を進めた結果として、「職場のコミュニケーションが活性化する/風通しが良くなる」が39.1%、「会社への信頼感が高まる」が32.5%、「管理職の意識の変化によって職場環境が変わる」が32.4%、「メンタルヘルス不調者が減少する」が22.0%と回答されています。
部下同士のトラブル対応で、管理職がやらないほうがいいこと
最後に、部下同士のトラブルへの対処として管理職が避けるべきことを挙げます。
- 片方の話だけを聞いて、もう片方に伝える
- 「二人でよく話し合って」と本人たちに戻す
- その場を収めるために、どちらかに我慢を求める
- 部下同士の会話内容を、他のメンバーに共有する
2つ目は、よく使われるぶん注意が必要な項目です。当事者同士での解決を求めることは、力関係が対等でない場合に一方の負担を増やします。前述のとおり、パワハラを受けた人の51.7%は「何もしなかった」と回答しています。本人たちに戻すことは、多数派の沈黙に戻すことと同じになりかねません。
4つ目も見落とされがちです。周知のつもりで共有した内容が、噂として広がることがあります。プライバシー保護は、厚生労働省の資料でも事業主が講ずべき措置に含まれている項目です。扱う情報の範囲は、最初に決めておいてください。
あわせて読みたい管理職のストレスの原因と対策|統計で見る5つの要因と減らし方トラブル対応が続いて消耗しているなら、ストレスの原因と対策をこちらで。まとめ
部下同士のトラブルは、どの職場でも起こりうる問題です。
対応の起点は、業務上の対立・すれ違い・ハラスメントの疑いの3つに切り分けることです。前の2つは、別々に話を聞き、事実と解釈を分けて記録し、業務の設計で解決できないかを先に確認する。この順番で進めてください。
ハラスメントの疑いがある場合は、自分で抱えず会社の窓口につなぎます。相談体制の整備も事後の対応も、会社が講ずべき措置として定められています。
予防で最も効果が見込めるのは、コミュニケーションの量です。経験者と非経験者で28.7ポイントの差が出ていました。
今日できることを1つ選ぶなら、直近1か月で1対1の会話をしていないメンバーがいないかを確認するところからで十分です。

