部下に注意しようとして、言葉を飲み込んだことはないでしょうか。「パワハラだと言われたら困る」という迷いは、いま多くの管理職が抱えています。10月5日に公開された社会保険労務士への取材記事でも、指導をためらう上司の増加が取り上げられました。ところが厚生労働省の調査を見ると、被害の経験率と企業に寄せられる相談の数は、逆の方向へ動いています。
ニュースの概要
取材に答えた社会保険労務士は、パワハラの判断には三つの要素がそろう必要があると説明しています。優越的な関係を背景とした言動であること、業務上必要かつ相当な範囲を超えていること、就業環境が害されること。厚生労働省も、客観的にみて業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導は、パワハラに該当しないと明記しています。
数字も押さえておきたいところです。厚生労働省の令和5年度「職場のハラスメントに関する実態調査」では、過去3年間にパワハラを受けたと答えた人は19.3%で、前回調査から12.1ポイント下がりました。一方、パワハラの相談があった企業は64.2%にのぼり、16.0ポイント増えています。
管理職にとってのポイント
- 被害経験が減って相談が増えた背景には、声を上げやすい職場が広がったという読み方ができます。相談の多さは、そのまま加害の多さを意味しません。
- 分かれ目になるのは、強く言ったかどうかよりも業務上の必要性と手段の相当さでした。注意する理由をあらかじめ言葉にしておくと、指導として説明しやすくなるでしょう。
- 感情を乗せず、事実を淡々と伝えたやり取りは、適正な指導だった記録として残ります。日時と内容をメモする習慣が、自分を守る材料にもなるでしょう。
- 怖さのあまり指導そのものを手放すと、今度は役割を果たしていないと見られかねません。やめる以外の選択肢を持っておきたいところです。
えんのした編集部の視点
この話で見落とされがちなのは、線引きを考え続ける時間そのものが管理職の消耗になっている点です。一言伝えるたびに頭の中で何度も推敲し、言った後も反応をうかがう。残業時間には表れない疲れをつくるのは、この積み重ねです。
だからこそ、線引きの判断をひとりで完結させなくてよいのだと思います。迷った場面は、伝える前に人事や自分の上司、社内の相談窓口に共有しておく。「この言い方で大丈夫か」を事前に一度他人の目に通すだけで、抱える重さはかなり変わります。ためらいを消す必要はありません。ためらいを相談に変えられる経路を、自分の周りに一本つくっておく。それが現実的に手が届く範囲の対策になります。

