「仕事の量が多い」「報われている実感がない」「先の見通しが立たない」。こうした職場の状態は、これまで個人の我慢や相性の問題として語られがちでした。ILO(国際労働機関)の報告書は、それを「心理社会的リスク」という労働安全衛生上の課題として整理し、世界規模の推計を示しています。9月10日、労働政策研究・研修機構(JILPT)が日本語で紹介しました。
ニュースの概要
報告書『心理社会的労働環境:世界的な動向と行動の道筋』は2026年4月に公表されたものです。職場の心理社会的リスクに関連する死亡は世界で年間約84万人、健康な生活年数の損失は約4,490万DALY、経済的な損失は世界GDPの1.37%にのぼると推計しています。
JILPTの紹介記事によれば、主なリスク要因として挙げられているのは、仕事の負担、努力と報酬の不均衡、仕事の不安定さ、長時間労働(週55時間以上)、職場のいじめの5つです。ILOはこれらを個人の資質の問題ではなく、組織の設計とマネジメントで根本原因に対処すべき課題と位置づけています。
管理職にとってのポイント
- 疲れの原因を「個人の耐性」ではなく「仕事の設計」に置き直した整理になっている
- 挙げられた5要因のうち、仕事の負担・労働時間・職場のいじめは、管理職の手が届く範囲と重なる部分がある
- 一方、報酬や雇用の安定は、一人の管理職が決められる話ではない
- デジタル化やAI、リモートワークは、扱い方次第でリスクを強めも弱めもする、と整理されている
- ILOが求めている対処の主語は「組織」であり、安全衛生の仕組みへの組み込みと労使の対話が柱になっている
えんのした編集部の視点
こうした報告を読むと、「自分のチームは大丈夫だろうか」と点検を始めたくなります。ただ、この報告書のいちばん大事なところは、数字そのものよりも、対処の主語を「組織」に置いていることだと私たちは受け止めました。
管理職が自分の裁量でできるのは、チーム内の業務量の配り方や、仕事の進め方をどこまで本人に委ねるかを見直すあたりまでです。評価や処遇、人員の配置、雇用の見通しは、その先の仕組みの話。そこまで背負い込む必要はありませんし、気づいたことは上司や人事に渡してかまいません。
そしてもう一つ。ここに並んだ5つの要因は、部下だけでなく、あなた自身の状況にもそのまま当てはまります。仕事の負担が重く、報われている実感が薄く、労働時間が長い——その説明が自分に当てはまると感じたなら、それは頑張りが足りないという話ではありません。まずは自分の働き方を、他人のチームを見るときと同じ目で眺めてみるところからで十分です。

