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「何度仕事を教えても、部下が同じところでつまずいてしまう」
「教える時間がなくて、つい自分でやってしまう」
部下育成についてそんな悩みを抱えている管理職の方も多いのではないでしょうか?
自分の仕事を抱えながら部下を育てるのは、簡単なことではありません。締め切りが迫るほど、教えるより自分で直すほうを選んでしまうのも無理はないでしょう。それでも、任せる範囲を少しずつ広げ、短い振り返りを続ければ、忙しい中でも育成は前に進みます。
この記事では、部下育成におけるよくある問題点と育成のポイントを紹介します。
管理職が部下を育成する重要性
部下の育成は、管理職に最も期待されている役割の一つです。リクルートマネジメントソリューションズの調査(2024年)では、人事担当者が管理職に最も期待することも、管理職自身が重要だと考える役割も、1位は「メンバーの育成」でした。
会社からの期待だけでなく、管理職自身にとっても育成は大切な仕事です。部下が育たないままだと、難しい仕事や判断はすべて自分のところに戻ってきてしまいます。これでは、自分が休めない、会議に出ている間は仕事が止まる、という状態から抜け出せません。
部下が一人で任せられる仕事が増えれば、管理職は判断や調整など、自分にしかできない仕事に時間を使えるようになります。部下にとっても、できる仕事が増えることは、仕事への手応えやこの先のキャリアにつながります。
管理職の部下育成でよくある問題
1. 教える時間が取れない
「時間をとって教えたいのに、会議と自分の仕事で一日が終わってしまう」という経験はないでしょうか。
多くの管理職は、プレイヤーとしての仕事を抱えながら部下を見ています。育成はすぐに成果が見えないぶん、どうしても後回しになりがちです。気づけば部下の様子をゆっくり聞く時間もないまま、数か月が過ぎていることもあるでしょう。
2. 自分でやったほうが早いと感じてしまう
「説明している時間で、自分がやれば終わるのに」と思いながら、つい手を出してしまうことはないでしょうか。
締め切りが迫ると、教えるより自分で直すほうが確実です。ただ、先述したように、その繰り返しでは部下は経験を積めず、同じ仕事がいつまでも自分のところに戻ってきてしまいます。目の前の仕事を早く終わらせることと、部下を育てることの間で、板挟みになる管理職は少なくありません。
3. 部下によって伸び方が違う
「Aさんにはうまく伝わったやり方が、Bさんにはまったく響かない」と悩んだことはないでしょうか。
経験年数も得意なことも、仕事に求めるものも、部下によって違います。同じ教え方では成長のスピードに差が出るため、一人ひとりに合わせる必要があります。部下の人数が多いほど、その手間は大きくなっていくでしょう。
4. 指導がハラスメントと受け取られないか不安になる
「この言い方で、パワハラだと思われないだろうか」と、注意する前に何度も言葉を選び直してしまうことはないでしょうか。
不安から指摘を控えているうちに、同じミスが繰り返されることもあります。どこまで言ってよいのかが分からないまま、育成そのものに踏み込めなくなる管理職もいるでしょう。
特に最近は「〇〇ハラスメント」という言葉は多く広がりました。ちょっとした言動が大きな問題にもつながりかねません。そうした背景から、自身の指導方法にも不安になってしまうこともあると思います。
管理職の部下育成のポイント6つ
さまざまな不安を抱えながら部下指導に当たっている管理職の方も多いと思います。前章で紹介したような問題を解決するためにも、下記の6つのポイントを押さえておくと良いでしょう。
1. 育成の目標を部下と一緒に決める
管理職が一方的に決めた目標は、部下にとって「やらされる課題」になりがちです。部下が自分の言葉で決めた目標なら、振り返りのときに本人が「どこまでできたか」を判断できるようになります。
目標を聞くときは、「将来どうなりたい?」のような大きな質問から入らないのがコツです。多くの部下は答えに詰まってしまいます。いまの仕事に引き寄せた質問から始めましょう。
<例文>
「いま、いちばん時間がかかっている作業はどれ?」
「半年後に、今より楽にできるようになっていたい仕事はある?」
目標は、できたかどうかを行動で確かめられる形にします。「提案力を上げる」では、半年後に達成したのか判断できません。「既存顧客への提案書を、上司の手直しなしで2本出せる」のように書けば、部下も管理職も同じ物差しで成長を確かめられます。
目標の数は、半期に1つか2つで十分です。あれもこれもと欲張ると、どれも中途半端なまま期末を迎えてしまいます。
2. 任せる範囲を段階的に広げる
任せたのに失敗したとき、部下は自信をなくし、管理職は「やはり任せられない」と感じて仕事を引き取ってしまいます。これを防ぐには、いきなり丸ごと任せず、次の4段階で少しずつ手を離していくのが効果的です。
- 見せる:管理職が進めるところを横で見てもらい、なぜその順番で進めるのかを説明する。
- 一緒にやる:一部の工程を部下が担当し、つまずいたところはその場で補う。
- 任せて確認する:部下が一通り進め、提出や送信の前に管理職が確認する。
- 任せきる:管理職は結果の報告だけを受ける。
ポイントは、段階は人ではなく仕事ごとに決めることです。同じ部下でも、見積もりの作成は「任せきる」段階で、クレーム対応はまだ「一緒にやる」段階ということはよくあります。
任せるときは、仕事の目的と期限、自分で判断してよい範囲の3つを伝えてください。期限が2週間の仕事なら、1週目の終わりに途中経過を見る日を決めておきます。方向がずれていても、その時点なら手戻りは小さく済みます。
3. 短い振り返りを定期的に続ける
仕事を経験しただけでは、人はなかなか成長しません。「何がうまくいったのか」「次はどう変えるか」を言葉にして初めて、経験が次の仕事に生きる学びになります。この言葉にする場をつくるのが、管理職の役目です。
時間は、週1回15分で十分です。長い面談を月に1回開くより、短い振り返りを毎週続けるほうが、部下も直近の出来事を思い出しやすくなります。聞くことは、毎回次の3つに絞ると続けやすいでしょう。
<例文>
「今週、いちばん手応えがあった仕事は何だった?」
「うまくいかなかったことは、次はどう進めてみる?」
「私に手伝ってほしいことはある?」
振り返りでは、部下が7割、管理職が3割くらいの割合で話すのが目安です。管理職がアドバイスで時間を埋めてしまうと、部下は自分で考えなくなります。
忙しい週ほど振り返りを飛ばしたくなりますが、予定をたびたび取り消すと、部下は「自分は後回しにされている」と受け取ります。時間が取れない週も、5分だけでも話すようにしましょう。
あわせて読みたいマネージャーの1on1は何を話す?テーマ・質問例・失敗しない設計振り返りに使える1on1のテーマと質問例はこちら。4. フィードバックは「状況・行動・影響」で伝える
「もっとしっかりして」「いい感じだったよ」と言われても、部下は何を直し、何を続ければよいのか分かりません。フィードバックは、次の3つをそろえて伝えると具体的になります。
- 状況:いつ、どの場面のことか
- 行動:部下が実際に何をしたか
- 影響:その行動で、何が起きたか
良かった点を伝える場合と、直してほしい点を伝える場合の例は、次のとおりです。
<例文>
「昨日の定例会議で、先方の質問にその場で数字を示してくれたね。おかげで、話が一度で決まって助かったよ」
「今朝の見積書で、単価が2か所前回のままだったよ。送る前に気づけたから問題はなかったけれど、次からは前回分との違いを確認してから送ってほしい」
直してほしい点は、できるだけその日のうちに伝えるのが基本です。半年に一度の評価面談でまとめて伝えても、部下はその場面を思い出せず、「なぜ今になって」と不満だけが残ってしまいます。同じく、良かった点も同じ日にすぐ伝えるのが効果的です。フィードバックは後回しにせず、できるだけ早めに伝える習慣を付けましょう。
5. 答えを先に言わず、まず考えを聞く
部下から相談を受けて、すぐに答えを教えれば、その場は早く片づきます。ただ、それが続くと部下は「聞けば教えてもらえる」と覚え、判断を管理職に預けるようになります。
相談を受けたら、まず「あなたならどうする?」と聞いてみてください。部下が案を出したら、「その案で、いちばん心配なところはどこ?」と一歩踏み込みます。部下が自分で見落としに気づくこともありますし、気づかなければ、そこだけを補えば済みます。
部下の案が自分の考えと違っていても、目的に合っていて大きな問題がなければ、その案で進めてもらいましょう。自分の案が採用された経験が、部下の「自分で考えよう」という気持ちを育てます。
ただし、何でも質問で返せばよいわけではありません。顧客からのクレームや締め切りの直前など、急ぎの場面では先に答えを示します。部下が初めて担当する仕事で判断材料を持っていないときも同じです。その場合は、あとで「なぜそう判断したのか」を説明しておくと、次に似た場面が来たとき部下が自分で判断できるようになります。
6. できるようになったことを言葉にして伝える
成長は、本人ほど気づきにくいものです。毎日少しずつ変わっていくため、部下自身は「まだ全然できていない」と感じていることも少なくありません。
成長を伝えるときは、ほかの部下とではなく、過去の本人と比べるのがポイントです。
<例文>
「3か月前は見積もりに2日かかっていたけれど、今は半日で出せるようになったね」
このように具体的に伝えるには、日ごろから「できるようになったこと」をメモしておく必要があります。月に1回見返して伝えるようにすれば、評価面談のときに評価の根拠としても使えるでしょう。
チームの会議で名前を挙げて紹介するのも一つの方法です。「この手順は〇〇さんが整えてくれた」と周りに伝わると、本人の自信になります。ほかのメンバーも、その仕事について〇〇さんに相談しやすくなるはずです。
部下育成で必要な管理職のスキル
部下育成で求められるスキルは、特別な才能ではありません。次のように、日々の関わりの中で身につけられるものです。
- 傾聴力:部下の話を途中でさえぎらず、最後まで聞く。
- 質問力:「どう思う?」「ほかの方法はある?」と、部下が自分で考えるきっかけをつくる。
- フィードバック力:良かった点と直してほしい点を、事実にもとづいて伝える。
- 任せる力:仕事の目的と期限、判断してよい範囲を伝えたうえで手を離す。
- 観察力:表情や報告の頻度の変化から、部下がつまずいているサインに気づく。
なかでも、育成の進み方に差が出やすいのは任せる力です。仕事を渡すときに「目的」「期限」「どこまで自分で決めてよいか」の3点を伝えておかないと、部下は途中で何度も確認に来るか、方向がずれたまま仕上げてしまいます。結局、管理職が手直しすることになり、「やはり自分でやったほうが早い」という思いが強まるでしょう。渡す前に3点を伝えるだけで、任せた仕事が戻ってくる回数は減っていきます。
すべてを一度に身につける必要はありません。苦手なものを1つ選んで、次の1on1で意識してみるところから始めてみてください。
管理職の部下育成における注意点
指導とパワハラの線引きを知っておく
厚生労働省が示すパワーハラスメント防止の指針では、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導は、パワハラに当たらないとされています。人格を否定する言葉や、ほかの社員の前で長時間叱責することは避け、行動と事実に絞って伝えれば、必要な指導はできます。
自分のやり方を押しつけない
自分が成果を出してきたやり方が、部下にも合うとは限りません。目的と期限を守れているなら、進め方は部下に任せましょう。
育成を一人で抱え込まない
部下の育成は、管理職一人で背負うものではありません。社内の研修制度を使ったり、先輩社員に教育役を頼んだりと、周りの力も借りてください。
育成に時間を割いても評価されず、人員も補充されない職場では、管理職の工夫だけで状況を変えるのは難しいでしょう。現状の職場に満足できていないなら、新しい環境に変えてみるのも一つです。
まとめ
管理職の部下育成のポイントは、次の6つです。
- 育成の目標を部下と一緒に決める
- 任せる範囲を段階的に広げる
- 短い振り返りを定期的に続ける
- フィードバックは事実と行動で伝える
- 答えを先に言わず、まず考えを聞く
- できるようになったことを言葉にして伝える
部下育成がうまくいかないのは、管理職の指導力が足りないからとは限りません。時間がない中でも続けられる任せ方と振り返り方を持てば、育成は少しずつ前に進みます。
今日できることを1つ選ぶなら、部下一人に「次に任せられそうな仕事」を1つ決め、範囲を絞って渡してみてください。
